生命保険と相続
生命保険金は相続財産に含まれるのでしょうか。
民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」と規定しています。
生命保険金がここで言う「被相続人の財産」に該当するのかどうかです。
生命保険契約についてはもともと商法で定められていましたが、保険法(平成20年6月6日法律第56号)の中に規定されました。
生命保険契約では「保険契約者」と「被保険者」、「保険金受取人」が決められます。
保険契約者は、保険契約を締結する当事者であり、保険料を支払う義務のある人です。
被保険者は、保険がかけられている人であり、被保険者が死亡したときに保険金が支払われます。
契約者と被保険者は、契約者が夫で被保険者が妻の場合など、異なる場合もあります。
契約者が自分以外のものを被保険者とするには、被保険者の同意を必要とするとされていますので、知らないうちに勝手に保険をかけられていたということはないと思いますが。
保険金受取人は、被保険者が亡くなった時に保険金を受け取る人で、保険契約者が指定します。
想定される生命保険契約のパターンとしては次のようなものが考えられます。
①保険契約者=夫、被保険者=夫、保険金受取人=夫
②保険契約者=夫、被保険者=夫、保険金受取人=妻
③保険契約者=妻、被保険者=夫、保険金受取人=妻
④保険契約者=妻、被保険者=夫、保険金受取人=子
生命保険金が相続財産になるかどうかのポイントは保険金受取人です。
①及び③は保険契約者と保険金受取人が同じであり、自己のためにする契約ですが、②及び④は保険契約者と保険金受取人が異なる、第三者のためにする契約です。
第三者のためにする生命保険契約は、保険金受取人が当然に生命保険契約の利益を享受するとされています(保険法第42条)。
すなわち、被保険者が死亡した場合の生命保険金は、保険金受取人の固有財産であり、被保険者の財産ではありません。
したがって、②及び④のケースは相続財産には含まれません。
また、③は自己のためにする契約ですが、生命保険金が保険金受取人の固有の財産であるという考え方からすれば、相続財産には含まれないということになるでしょう。
唯一①のケースは、保険金受取人が被相続人自身であるわけですから、このような場合(被保険者=被相続人の場合)だけ、相続財産として扱われることとなります。
ただし、生命保険金が相続財産ではない場合でも、保険金の額や遺産総額に対する比率があまりに大きくて、相続人間に到底認めることができないような不公平が生じるような場合には、民法第903条の特別受益者の相続分に準じて、保険金受取人である相続人の相続分が減じられる場合もあることが平成16年の最高裁の決定で示されています。
なお、相続財産にはならなくとも、相続税においては、被相続人が保険料の一部または全部を負担していた生命保険金は、みなし相続財産として扱われ、一定金額を超えると相続税の課税対象になるので注意が必要です。